屍者の帝国 その2

屍者の帝国

屍者の帝国

 
 あのあと、読書会に行ったり、SFマガジンの特集を立ち読みしたり(まだ購入を悩んでるデス・・・)しました。
 岡和田氏の解説というか論考が一番、がっかりで、著者とも面識のある人なんだからもっといろいろ書きたいことととか書けることががっつりあるでしょー! と思ったのでした。
 
 週末は、京都SFフェスティバル京フェスですね。
 何年か前の京フェス円城塔氏と新城カズマ氏の対談です。
 http://www.ustream.tv/recorded/2326751
 ふたりあわせて舞城王太郎とか、城城(ジョウジョウ)の奇妙な冒険とかゆってましたが、まさかほんとに舞城ジョジョが出るとは思いませんでした。
 01:34:30あたりから、ラブプラスの話題に入り、興味津々で触る新城カズマ氏と、ぜったいに触ろうとしない円城塔氏が見れます。
 
 まえふりです。
 
 まえふりですが、さておき。
 『屍者の帝国』について語るとき、ふたりの友情でうんぬんという文脈で語られることが多いのですが、私が読みとったのはちょっと、別の物語で・・・。
 先日もちょっと、書きましたが。
 
 小島秀夫監督が“自分の分身のような存在”と評したSF作家,故・伊藤計劃氏とは?「伊藤計劃記録:第弐位相」刊行記念トークショーをレポート - 4Gamer.net
 

小島秀夫監督が“自分の分身のような存在”と評したSF作家,故・伊藤計劃氏とは?「伊藤計劃記録:第弐位相」刊行記念トークショーをレポート

 
 ここら辺の話絡みで感想書いてる人がいないなーと思うのです ぞ。
 
 伊藤計劃は、小島監督に多大な影響を受けてます。
 小島監督作品というと、メタルギア、同ソリッド、ポリスノーツスナッチャーZ.O.E・・・は、違いますな。Z.O.Eは、小島監督の作品ではない。
 読んでて疑問に思ったのが、円城塔はここら辺の小島監督作品で遊んだことがあるのかなー ということ。
 円城塔は、ゲームで遊ぶ人なのか。
 ウルティマオンラインの中で、小説を売ってたという話があるので、多少はゲームするみたいですけど、MGS4の小説を読んだときは、ゲームで遊んだことはなかった風でした。
 でも、小島監督作品で遊ばないで、伊藤計劃を再現できるのか という疑問がある。
 ピンカートン探偵社が戦争企業に変わってるのは、ちょっとMGS4風なんですが(企業が戦争を仕切る という設定)そのくらいでしょうか。
 円城氏のツイッターを追いかけても、ラブプラス小島監督作品ではないけど、コナミゲーム)攻略彼氏を構築するのはどうかというような話は出てくるんですけど、寧々さんとつきあったという話は出てこない。
 
 ふむー。
 
 

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン (Vol.1) (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)

リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン (Vol.1) (JIVE AMERICAN COMICSシリーズ)

 もはや、高額どころか、入手さえ不可能になった『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』。
 本作と『ドラキュラ紀元』が『屍者の帝国』オープニングの下敷きになってます。
 なぜ、歴史上の実在の人物や虚構の人物が入り乱れて活躍するのかといわれたら、これが元ネタだからとしか言いようがない。
 ちなみに、翻訳者のひとりは秋友克也氏。
 カプコンのアメコミ絡みゲームの中心人物。シェーキー秋友という名前で活躍してました。デビルメイクライなどにも参加して、その後、カプコンを退社。カプコン時代の上司が作ったゲーム・リパブリックに移籍してます。
 今の日本におけるアメコミブーム源流のひとつが、カプコンX−MENだったというのは間違いのないところで、日本のアメコミ文化にとても貢献されてるのですな。
 カプコンは、有名なゲームクリエイターイラストレーターを多数 輩出してて、秋友氏もそのひとりなのです。
 
 ちょっと脱線しました。
 
 脱線ついでに。
 小島監督がロボットゲームZ.O.Eをプロデュースするにあたり、出した企画でセックスを取り上げたものがありました。記録がネットに残ってないので、記憶に頼りますが、宇宙に出た人類がなぜか子供を作れなくなってしまう。ところが、火星にだけ、子供を作れる人類が残っている。そこで、子供を生める人類の争奪戦が始まる みたいなお話で。
 家庭用ゲームの中で、セックスというのは当然、タブーなので、採用には至らなかったそうですが、伊藤計劃氏が、死体の奴隷化によって栄える文明というタブーを取り上げたとき、ゾンビ好きというだけでなく、このボツ企画のことも念頭にあったのではないかな と思った次第。
 
 脱線が多いです。
 お話を戻します。
 小島秀夫 on Twitter: "MGSのテーマは『次の世代に遺すもの』。MGS1ではGene(遺伝子)。MGS2では遺伝子に載らないMeme(文化的遺伝子)、MGS3では遺伝子とミームの尺度となるScene(時代)、MGS4ではそれらでは伝わりきらない生身のSense(意志)、PWではPeace(平和)だった。"
 

小島秀夫 ‏@Kojima_Hideo
 
MGSのテーマは『次の世代に遺すもの』。MGS1ではGene(遺伝子)。MGS2では遺伝子に載らないMeme(文化的遺伝子)、MGS3では遺伝子とミームの尺度となるScene(時代)、MGS4ではそれらでは伝わりきらない生身のSense(意志)、PWではPeace(平和)だった。

 
 話したかったのは、『屍者の帝国』と小島監督のお話。
 小島監督は、MSXの作品、メタルギアのリメイク作品ともいえるメタルギアソリッドで有名になりました。ただ、本人はシリーズをやめたい、引き継がせたい と何度も言ってます。
 それは、作品のテーマとも一致します。
 MGS2(メタルギアソリッド2)くらいから言ってたはず。
 
 で、ひとりの候補があがります。
 MGS2に付録のパロディ小説で参加していた村田周陽、通称 ムラシュウ。
 村田氏は、その才能を見込まれて、あまり成績の芳しくなかったロボットゲーム Z.O.Eに参加。シリーズ第二作である『ANUBIS Z.O.E』を完成させます。
 これは、ほんとの傑作ゲームで、いまでもファンが多いし、10年も前のゲームなのに、最近 プラモやフィギュアにもなっています。
 
 ところが、びっくりするほど、売れなかった。
 
 小島監督は新人研修などで、ゲームソフトの販売数を当てさせたりしていましたから、自分でも売り上げ本数の見込みには自身があったはずです。その想像を大きく下回る販売本数だったのだから、二重にショックだったでしょう。
 
 このときの監督経験がとても辛かった と村田氏はインタビューで語っていますが、それが原因なのか、このあと単独・監督作品をひとつも作らなくなります。
 よく、勘違いされているのですが『ANUBIS Z.O.E』は小島監督の監督作品ではありません。小島秀夫監督によるプロデュースで、監督は村田周陽氏です。小島監督の「監督」というのは高橋名人の「名人」みたいなもので、これが誤解の原因だと思われます。
 
 小島監督は多分、自分の後任の有力候補として、村田氏を考えていたはずです。ところが、それがうまく回らなくなってしまった。
 
 そのころ、うわさに聞こえてきたのが伊藤計劃氏。
 小島監督は、伊藤計劃氏の同人活動を目にするようになります。
 実際にあうようになって、その見識、着想、才能に小島監督は惚れ込みます。
 のちのトークショウでこんなことを言ってます。

小島監督は「アイデアや設定を理解してくれる,言葉では表現できない自分の分身みたいな存在。今でも『伊藤さんならどう思うだろう?』と思いながらゲームを作っている」と答えた。

 
 メタルギアソリッド3を経て、メダルギアソリッド4へ。
 このとき、すでに伊藤計劃氏は病床にありました。
 小島監督は伊藤氏にMGS4のノベライズを依頼します。
 
 一方で、自身は、村田周陽氏との共同脚本・監督にてゲーム MGS4を完成させます。
 wikipedhiaによるMGS4の制作スタッフは以下の通り。

原案・企画・ゲームデザイン - 小島秀夫
ストーリー・脚本 - 小島秀夫、村田周陽
プロデュース・監督 - 小島秀夫
ディレクター - 村田周陽

 
 このあとPSP用大作ソフト MGSピースウォーカーを経て、小島監督は新しい企画を立ちあげます。メタルギアの大型スピンオフ作品、ライジングです。
 これは、小島監督が直接はタッチせず、新規スタッフで作成させました。
 小島監督は次のスタッフが新しいメタルギアを造り、バトンタッチできることに期待したのです。
 このころ、自分が死んでもメタルギアは続くという主旨の発言をしています。
 
 が、頓挫しました。
 かなりの時間とお金をかけたものの、どうにもゲームにはならず、断念せざるを得なかったのです。
 
 MGSのテーマが『次の世代に遺すもの』であるはずなのに、またもバトンタッチできなかったのです。
 
 結局、この企画はカプコンから独立したクリエイターの集団であるプラチナゲームズ(代表作『ベヨネッタ』など)が引き継ぐことになりました。2013年発売予定です。
 
 
 さて。
 上にも取り上げた 2011年4月23日の「『伊藤計劃記録:第弐位相』刊行記念トークショー」は、ネット中継されていました。
 当時、既に『屍者の帝国』執筆中であった円城氏もこの中継を見ていて、「35才最高傑作説」を聞いて、うーん とうなったりしてます(ツイッターで確認できました)。このときの円城氏の年齢と芥川賞、生きていたら伊藤計劃氏が何才であったかを考えると、なかなか感慨深いものがあります。
 
 
 このトークショウには、大森望氏や、早川書房 第二編集部長 塩澤快浩氏も参加していました。
 先頃、早川書房の新しいSFコンテストが発表されました。審査員には小島監督の名前もありますから、すでにこのときにコンテスト審査員の話は固まっていたのでしょう。
 募集の概要には、伊藤計劃氏を越える新しい才能を待ち望む とあります。これは早川書房もそうでしょうが、小島監督の悲願でもあるでしょう。
 継ぐものが現れるのか。
 
 一方で、村田周陽氏の『ANUBIS Z.O.E』は、この10月 リメイク版が発売されます。限定版も出ます。
 よく見ると、その限定版にはメタルギアライジング体験版DLコードが付いています。さらに、SF作家のエッセイ・コメントも付いています。作家陣の中には、あの円城塔氏の名前もあります。
 
 さて。
 円城塔氏が何を書いているのか。
 とても、気になるところです・・・。
 
 
 少し、話がずれます。
 ゲーム・リパブリックはその後、事実上の解散。社長 ひとりだけの会社になり、社員は全員解雇となりました。
 最近、アメコミ翻訳に秋友氏の名前がクレジットされることが多くなりましたが、アメコミブームとリパブリックの解散が理由ではないかと思うのです。不謹慎ではありますが、リーグオブエクストラオーディナリージェントルメンの3巻が、翻訳されるのではないかと、期待したりしています。
 

ZONE OF THE ENDERS HD EDITION (通常版) - PS3

ZONE OF THE ENDERS HD EDITION (通常版) - PS3

 
 
 ええと、あまり『屍者の帝国』の話ではなくなってしまいました。
 小島監督と、その息子たち というお話で流し読んで頂ければと思います。
 
 そういえば、元祖のメタルギア早川書房一色でした。中ボスは「ランニング・マン」「ブラック・カラー」など、当時のハヤカワ文庫タイトルを想起させるものから来ていました。メタルギアに心酔していた伊藤計劃氏は、多分、このあたりも読んでいたのではないかと考えたり、考えなかったりです。