リドルストーリー
リドル・ストーリーの概念を知ったのは、『謎のギャラリー』の中でのこと。
収録されていたのは「女か、虎か」だったかしら。や、収録はなくて解説だけだったかも。
- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 1998/07/01
- メディア: 単行本
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新書版の『謎の物語』を読んだときは、そこで「女か、虎か」に再会したのですが、その男装お姫様の話は、忘れておりました。
で、今回、文庫版を手に取ってみると、一番、最初にその男装お姫様の話が入ってる。
おや、紀田氏は、北村薫の『謎のギャラリー』を読んだのかしら。
と、思ったのですが、文庫版巻末の解説を読んでみると、どうもこの話はリドル・ストーリーの代名詞と言って良いくらいの定番中の定番の話である ようなのです。
なーんだ。
『謎のギャラリー』←→新書版『謎の物語』 →文庫版『謎の物語』
でも、これくらいの関係性はあるんではないかと思うのです。
編集部に、あるいは編者にあれも入れてこれも入れてと、手紙が届いたりしたのではないかと夢想するのです。
・・・ホラーでは多いけど、SFでリドル・ストーリーというのは、記憶にないので、出来れば入れて欲しかった。
ちょっと脱線しました。
ここから、『十兵衛両断』の話です。
読んでない人の興味をそぐ話なので、読みたい、読んでない、興味がない、読む予定がない という人は、それでも、一旦こちらでの紹介を読んで、その上で、戻ってきましょう。
http://internet.kill.jp/d/200511.html
さて。
で、日本のリドル・ストーリーにどんなものがあるか。
巻末解説で紀田氏は五味氏の柳生ものをあげます。
戦後の例としては、五味康祐の「柳生連也斎」がある。
2ページ近くにわたり、引用したあと、しかし、このように結びます。
「(略)するとその武士はニヤリと笑い、途端に、顔が二つに割れ血を吹いて(略)はどうと大地に倒れた」
要約を詳しく記したのは、日本ではめずらしいリドル・ストーリーだからではない。柳生連也斎は実在人物だが(略)。(略)連也斎が勝ったのは自明なのであるが、それではなぜ結果を明示しなかったのだろうか。
つまり、リドル・ストーリーの形をとってはいるものの、史実としては、連也斎が生き残っているので、ちょっとおかしなことになってますよと。
ふむー。
第一、これは、小説だから成り立つ話であって、映画には出来ない話ですな。
うーん。
そこで、と思い出されるのは『柳生十兵衛、死す』・・・ではない。
『十兵衛両断』収録の表題作「十兵衛両断」であります。
- 作者: 荒山徹
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なら、同一人物が殺し合ったら・・・というのが、十兵衛両断。
韓国から来た妖術師の秘術ノッカラノウムで体を奪われた十兵衛は、己が体を取り替えさんとしますが、代わりに得た(残された)肝心の体は、虚弱であり、十兵衛の才能と、努力を持ってしても、どうにもなりようがなかったのです。
様々な方法を試し、もう、どうにもならないとなったそのとき。
あ、関係性のことを言ってませんでしたが、こうです。
『柳生連也斎』←?→『十兵衛死す』 →↑『十兵衛両断』
十兵衛両断が、斜め上に行ってますが、それはあとから。
続きます。
そのとき!
・・・と、ここら辺の手法は秘密にしますが、十兵衛は自分の能力とその容姿を取り戻すのです。
十兵衛を追う、十兵衛。
一方の十兵衛もそれを待ち受ける。
月が照らす中、ふたりの十兵衛は立ち会います。
十兵衛としての能力を取り戻した男と、十兵衛の体を奪ったが故に心が十兵衛に染まってしまった男が対峙します。
果たして、読者はどちらを十兵衛と見て取ればよいのか。
「十兵衛推参」「この韓人が」
二人は斬り合い、そして、ひとりの十兵衛はその場に倒れ、一人の十兵衛はその場を去っていきます。
果たして、本物同士の十兵衛が斬り合い、勝ったのはいずれなのか・・・。
という、リドル・ストーリーなのであります。
明らかに五味氏の影響を、山田風太郎の影響を受け、その上で、リドルストーリーとして、成立させてます。
もひとつ。
ねーたーばーれーですー。
「女か、虎か」は続編があるものの、作者はそこで、前作の結末を明かさなかった。
ここが優れている と紀田氏は指摘します。
それはそうです。
手品のネタを明かすようなものです。
興ざめなこと、このうえない。
誰に聞かれても答えるべきではありません。
しかし!
連作短編集『十兵衛両断』は最後に、どちらの十兵衛が、そのとき、死んでいたのかを明らかにするのです。
しかし、しかし、それは・・・っ!
やー。
ちゅうことで、日本の戦後リドルストーリーの始祖を五味氏とするなら、その見事な返歌であり、リドルストーリーとしての完成度も勝る「十兵衛両断」に言及しないのはおかしかろうと、そのようなお話でございました。
・・・よ?
いっしょに収録したら、良かったのに。
- 作者: 紀田順一郎
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