カール・シュレイダー(カール・シュローダー)来る! 2

 大事なことなので、何度も書きます。
 
 それは、SFものにとって一番大切な年、二〇〇一年のことでした。
 カナダをだまくらかした日本のSFファンは、カナダ大使館で、SFセミナーを行ったのです。
 この年は特別な年で、二回行われて、そのうちの一回が、カナダ大使館で行われたのですね(もう片方には『レキオス』『テンペスト』の池上永一や、SF界のツンデレ瀬名秀明が来てました。)。
 大好きな作家が来るというので、息せき切って駆けつけたわたし。
 時間ぎりぎりに到着して、トイレを探してたら、ロバート・J・ソウヤーが「あっちだよ」と教えてくれました。
 
 お陰でズボンを濡らすことなく、何とか無事にセミナーに潜り込んだわたし。
 最初の企画(コマ)は、「カナダSFの現在」というタイトルでした。
 SFマガジンの連載陣が出演、今では、ほにゃらら(書いて良いのか分からないのです)となった方が司会をするという豪華な内容。
 あ、まだ、頁が残ってますね。
 

出演/加藤逸人、北原尚彦、山岸真 司会/井手聡司

 
 そう。
 この時、初めて、カール・シュローダー(カール・シュレイダー)の名前を聞いたのです。
 加藤氏だったと思いますが、カナダの注目の新人作家 ということであげていた作家が三人いまして、そのうちの一人が、彼 シュレイダーでした。
 『ベンタス』という小説がしぶい『ハイペリオン』とでもいうような内容で、たいへんすばらしい と褒めてました。うろ覚えですが、中枢にマザー・コンピューターのようなものがある星があるのですが、表面上は中世ファンタジー風の世界になっている。そこを訪れた調査員が原住民のふりをして、コンピュータを調べるという SFとFTを両方、きっちり書いた内容だとかなんか、そんな説明だった気が。
 この しぶいハイペリオン というのは、ものすごい褒め言葉です。
 二十世紀を代表するSF作品を一本 といったら、これはハイペリオンしかない。例えとはいえ、それを引き合いに出される作家といったら、相当の筆力があるはず。
 ね? 期待するでしょう?
 
 その後、山岸氏もシュローダーが合作で書いた長編を一本紹介してました。
 それが、『クロウス・エフェクト』。
 当時のわたしはこのように書いています。

 今回、会場でしぶい『ハイペリオン』(カール・シュローダーの『ベンタス』のこと)をしのぐ注目を集めたのが同じ作家の『ザ・クロウス・エフェクト』。
 山岸先生が裏表紙の解説を読み上げます(かなり記憶あやふやです)。
「冷戦をしのぎ、1999年を間近に控えた地球は、しかし! いままさに最大の危機を迎えようとしていた! 大方の予想を超え、それは核ではなかった! 宇宙人でもなかった! その脅威は北極にあった。その正体は」
 と、ここで声を潜め。
 一拍おいて。
「ここでいきなり、その正体が赤の太字で書かれてます。サンタ・クロースと」
 場内大爆笑の渦! んが、ひーひーいっている観客を冷静に見下ろしながら山岸先生は続けます。
「そう。サンタ・クロースだったのです。実はサンタへの手紙はいつもサンタの奥さんの手によって選別されていたため『サンタさん、僕のパパとママを殺して下さい』『あいつの家をぶっつぶして!!』といった手紙は前もって外されていたのです。しかし、ひょんなことからそれを目にしたサンタは怒りの破壊活動に走ります。国連はこの緊急事態に対処するため選りすぐりの原潜部隊を各国より召集、北極に派遣するのですが、そこに待ちかまえていたのはっ! 身長8メートルはあろうかというサンタクロース(精霊なのです。)!! ああ、人類の存亡やいかにっ!」
加藤「うわああん。丁寧に紹介したシュローダーがあああっ。うええええん」

 アイディアは相方のものらしいのですが、妙に銃器の描写がこっていたりとかしてたそうな。 
 
 さて、そのカール・シュレイダーの長編が、初めて、この十一月に早川文庫から出るんです。
 『太陽の中の太陽』が、それです。
 シリーズものの一冊。
 ヴァーガという世界で、直径三千キロの大きさのバルーンがいくつも、ふわふわ空気中に浮かんでて、人類はそこに暮らしてて、自由に行き来できる という設定。ラリー・ニーヴンを思わせるというのですから『インテグラル・ツリー』(未読です。絶版なんだもん)みたいなものかもしれません。
 そこを舞台にした少年の冒険譚! 少年は六歳の時に、両親を殺されてるので、復讐物語でもあるのかも。
 
 ペーパーバック版にはニーヴンのコメントが寄せられています。いわく
"I loved it.It never slowed down."

 ヴァーナー・ヴィンジも「数年来、SF界ではみられたことのない緻密な考証がある。『重力の使命』『竜の卵』にあったそれが。」と書いてる気がします。
 コリー・ドクトロウも「スリルに満ちたアクションと、めちゃくちゃかっこいいスチームパンク・テクノロジーと、世界設定。これが『太陽の中の太陽』にはあるんだぜ。ああもう、この世界設定ときたら! シュレイダーは神だ。」と書いてる気がします。
 
 わくわくするでしょう。
 十一月一〇日発売。
 大切なことなので、なんどもなんども繰り返してます。
 
 
 ※ カンチガイしてるところがあると思うので、見つけたら、早めに指摘をくださいな。