森ミステリ

封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)

 全体の90パーセントを読み終えるまで、不満が多かったんですが読み終えると見事なアンチミステリとして完結していて感心しました。
 シリーズもののつぼを押さえ、キャラクターの関係の進展をやきもきしながら読むように「させる」という手腕が見事。
 
 
 以下は、ややネタバレを含む感想です。
 ミステリ部分では、私の嫌いな趣向が採用されています。途中、登場人物がAというものの性質について詳しく語る場面があり、これがそのままトリックの解明に採用されるというものです。森ミステリでは何度か、使われている手法で、途中で哲学や概念に関する会話という形で出てくることが多いんですが、やはり そこだけ浮いているように感じてしまいます。
 一方、箱と鍵のトリックですが、これも(は?)通常のミステリではあまり歓迎されない手法で解明されてしまいます。ですが、そこをキャラクターとシリーズの方向性でカバーしています。
 そこら辺を、アンフェアととるのか、どうかは微妙なとこですが、小説としては完成されていて、このトリックが話に非常にうまく親和しているんですね。
 
 通常のミステリではあまり評価されないトリックをメイントリックに抱えながらも、小説としてはきちんと完成している し、そのトリックがなければならない といういびつな代物です。でも、ミステリではある。
 アンチ・ミステリとは作者自身も指摘していることではありますが、なるほど、言いえて妙です。