太陽の中の太陽
カナダSFを代表するSF作家のひとり、カール・シュレイダーの本邦初訳『太陽の中の太陽』読了。
前回のSFファン交流会で『パーマネンス』という小説でとり上げられていたように、基本はハードSF寄りの作家さんのようです。
表紙イラストは、Stephan Martiniere。ホームページはこちら。
Stephan Martiniere
『シンギュラリティ・スカイ』『スノウクラッシュ』『リングワールドの子供たち』の表紙、スタートレック、スターウォーズのデザインも手がけているという有名な人。
地球大の大きな膜で閉じられた空間には、空気が満ちています。
そこにある百を超える小さな人工太陽の下、密閉されていないスペースコロニーもどきの中で、人々は暮らしています。重力はないので、自分たちで重力を発生させなければ、健康的な生活は望めません。
また、ちゃんとした太陽を持っていることも必要です。
本作の主人公は、太陽に絡む抗争で父と母を殺された青年。
注意! 以下、ややネタバレです!
ほんとうに面白いのかなー という不安があったんですが、読んでみてびっくり。
かなり、ちゃんと、まっとうに面白い。
や、変なほめ方ですけど、ハードSFは、とっつきにくくて、万人に勧めがたいことがあるし、そういうのかも知れないと思ってたんですが、そっちではない。
オリジナリティのある世界観からニーヴンが引き合いに出されてますが、それだけではなくて、エンタテイメントに徹した冒険譚 なので、ニーヴン風味。リングワールドは確かに近い。
同じハードSFではバクスターを思い出させる世界設定ではあるものの、あんなに退屈ではなくて、キャラのひとりひとりがかなり強烈な個性を持っていて(中でも、提督婦人のキャラクタはかなり個性的。主人公を完全に喰ってしまってます。)、話もがんがん進みます。もっとのんびり書かなくてもよいの? と、こっちが不安になるくらい。でも、最後まで中だるみ無しで一気に突っ走ります。
『リングワールド』もそうですが、最近だと『老人と宇宙』とか、そっちを思い出させます。
ニュー・スペースオペラとは、密度が違う。
イメージは、アニメ『LAST EXILE』『戦闘メカ ザブングル』『天空の城ラピュタ』を想像すると、当たらずとも遠からず。
復讐譚かなあと、思ったらそうではなくて、カバーにある通りの「波瀾万丈の冒険物語」というのがウソ偽りのない紹介。これにいちばん驚かされました。
アクやクセがなくて、読みやすすぎるので、かえって物足りなさを感じるかも知れませんが、そこら辺は多分 無い物ねだりなのでしょう。
大傑作! と騒ぐような話ではないんですが、抜群のリーダビリティと世界設定は保証できます。
3部作の1巻目との話ですが、これなら2冊目も期待できます。買いますとも!
でも。
サンタの話を書くような人には見えないなあ。
あと、翻訳にお願いを。
オーブリと言ったり、マハランと言ったり、同一人物の表記が統一されてないので戸惑います。会話文ならともかく、地の文では、統一していただきたい。
- 作者: カール・シュレイダー,Stephan Martiniere,中原尚哉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/11/21
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 9回
- この商品を含むブログ (19件) を見る